専門家から世界遺産登録に難題の声

2006 年 12 月 6 日 カテゴリー: blogsニュース

亜熱帯の小笠原諸島、世界遺産登録に難題 生態系脅かす外来種

<2006・チャンネルYou>

◇新航空路で往来増も

「東洋のガラパゴス」と称される亜熱帯の海洋島、
小笠原諸島(東京都小笠原村)を「世界自然遺産」に推薦する動きが
本格化してきた。国や都、地元は最速で08年夏に開かれるユネスコ
(国連教育科学文化機関)世界遺産委員会での登録を目指す。
一方、専門家からは外来種が固有種の生息を脅かすため
「登録は難しい」との声も。小笠原の世界遺産入りは実現できるのか。
【田中泰義、木村健二】

小笠原諸島では現在447種の植物が確認されており、このうち
ムニンツツジに代表される161種が固有種だ。動物でも、ほ乳類の
オガサワラオオコウモリや昆虫のオガサワラアオイトトンボなど、
絶滅が懸念される固有種は多い。

また、地質学的にみてもマグネシウムを多く含む特殊な安山岩
(ボニナイト)でできており、約4800万年前から現在までの
島弧(島の連なり)の成長過程がみられる世界唯一の地域だ。

政府はこうした特徴が世界遺産に値するとして登録準備に着手。
環境省や都、村や地元観光協会などでつくる地域連絡会議は、
来年1月中に登録希望の意思を示す暫定リストを
世界遺産委員会に提出することを決めた。

村は就業人口約2000人の約4分の1が観光業に従事している。
最近は観光と自然保護の両立を図る「エコツーリズム」を推進し、
都が小笠原で養成した自然ガイドは200人を超える。
森下一男村長は
「村の財産である自然の保全と活用を内外に発信できる」と、
登録を期待する。

しかし、登録には外来種という大きな障害が立ちはだかる。
豊富な固有種が安定して生息することが条件だからだ。
深刻なのは明治時代、燃料用に持ち込まれた常緑広葉樹アカギだ。
成木は高さ20メートルになるため、日陰の樹下は他の植物が
育ちにくく、アカギがさらに増える。

環境省によると、母島ではアカギが主になった森林面積が
全体の15%にあたる297ヘクタールに上り、このうち85ヘクタール
ではアカギ占有率が70%以上を占める。ここには固有種の昆虫を
捕食するトカゲの仲間グリーンアノールが1ヘクタール当たり
数百匹以上生息すると推定される。このほか、聟島(むこじま)で
クマネズミ、兄島でノヤギや常緑樹モクマオウ、弟島でウシガエル、
父島でもノヤギなど、多くの外来の動植物が確認された。

有識者の助言を求めるため11月末に開かれた科学委員会の
初会合では「父島では持ち込まれたプラナリアで貴重な陸産貝類が
大打撃を受けた。母島に侵入したら大変」「非常に危険な状態。
ガラパゴス諸島のように検疫を充実させないと」などの声が相次いだ。

過去にはニュージーランドにある亜南極諸島が外来種に悩まされ
ながらも生態系復元への取り組みが評価され、98年に登録が
認められた。環境省は今後、外来種の削減目標を設定するなど、
島ごとの対策を進めるほか、新たな侵入を防ぐための荷物チェックを
徹底する。林野庁も来年4月、原則、人の手を加えない
「森林生態系保護地域」を現状の約500ヘクタールから
約5500ヘクタールに拡大する。

自然遺産は最近、登録件数の増加に伴い審査基準が厳しくなり、
“合格率”は5~6割程度とされる。また都が進める航空路の開設が
実現すれば、人の出入りが活発化し、外来種が持ち込まれる可能性が高まる。

科学委員会委員の千葉聡・東北大助教授は
「外来種対策をもっと早く強化すべきだった。登録への敷居は高い」と
楽観論にクギを刺している。

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■ことば

◇世界遺産

貴重な遺跡や自然を守ろうと72年に採択された世界遺産条約に基づき
登録されている。文化、自然、その両方の価値を持つ複合の3種類ある。
昨年7月現在、世界で162件の自然遺産を含め計830件が登録された。
日本の自然遺産は知床(北海道)、白神山地(青森、秋田県)、屋久島(鹿児島県)。

2006年12月6日 毎日新聞 東京夕刊

関連リンク 小笠原諸島:世界遺産

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